藤井先輩と私。

 
何かにぶつかった?


ぶつかった勢いで、座りこんでしまっていた私は目をそっと開ける。

目の前には、女の子が尻もちをついていて、ぶつかった鼻をさすっていた。

ゆらりとツインテールが揺れる。


あ、謝らなきゃ。



「ごっごめんなさい!立てますか?」


私は、すぐに立ちあがってその子に手を伸ばす。

「ありがとう」


女の子は私の手を取ってゆっくりと立ち上がった。



「!!!!!!」


「!!!!!!」





立ちあがった少女と私は、手を取り合ったまま固まった。


だって、目の前の少女は、“アンナ”って呼ばれてた、先輩の彼女。



バシッ



音を立てて私の手が、その子によって払われた。



「あんた、なんでここにいるんや!もしかしてストーカー!?」



そんな。ストーカーだなんて!


「違います!藤井先輩にお伺いしたいことがあって…」



「ご生憎やなぁ!あんたのような下衆の小娘になんて悠太は会いたくない言うとるわ」



コテコテの関西弁。


でも、関西弁でよかった。

すごくひどいことを言っているみたいだけど、ほとんど理解できてないから全く傷つかない。


(天のユカの声:あんた、“生憎”とか“下衆”とか標準語だからね)



「先輩に聞きたいことがあるんです!通してください」

「いやや!悠太の彼女は私なんや!2人の甘い時間邪魔されたくない」



一歩も引かない私と、“アンナ”。



言葉を越えた睨み合いが始まり、2人の間に沈黙が流れる。



「ぐぬぬぅ」


「むむむぅ」


2人の唸り声が響く。

このままだと、翌朝までにらみ合う勢い。

私が行動を起こすか、“アンナ”が行動を起こすか。

しかし、その沈黙を破ったのは私でも“アンナ”でもなかった。

 


「おい、杏奈~。やっぱアイスじゃなくてシュークリーム買うて…き……」