藤井先輩と私。

教室――――



「わわわわ…」


「陽依はみたらアカン」


私の目の前は真っ暗になった。

いや違う、赤くなった。

私の視界は藤井先輩の手のひらで隠されて、その掌を夕陽の眩しい光が照らして、私の眼には赤く映る。



「先輩!見えません」

私は教室の2人に聞こえないように小さな声で訴える。
藤井先輩は手のひらをどけようとしない。

「陽依には早い!こういうのは大人になってからや」

「先輩も十分子供です!」


私の目がふさがれる前までの光景は、影法師がふたつ重なり合っていたから、そのあとどうなったかは分かる。

言葉は聞こえなかったけど、2人が抱きしめあったことでどういうことが起こったのかはだいたい予想できた。


「……俺達邪魔やろうから、帰るか?」

そう言って藤井先輩は私の視界を解放する。

教室は夕陽の中で笑いあう2人の姿があった。

「そうですね」


私と藤井先輩はそっと廊下を低い姿勢で進んでいき、靴箱へ走った。


「靴箱で待ってて、一緒に帰ろう」

藤井先輩はそう言って自分の靴箱へ走る。

私は言われたとおりに待った。