「……っ…ひっく……ふぇぇ…」
「どうしたの?まだどっか痛い?」
男の子は心配そうにきいてくるけど、私の涙はいっこうに止まる気配がなくて。
だってこれは…。
この涙は…。
「んとね……これは、わたしの涙じゃないよ……っ…」
「え?」
「だって、きみが泣くの我慢してるから、その涙がわたしにうつったんだよ」
男の子は私の方を見て、驚いた顔をしていて、それからそっと私を包み込むように抱きしめた。
「…ありがとう」
少しかすれた声だったけど、男の子はたしかにそう言ったんだ。
それから日が傾いてきたので、男の子と私は手を振って別れたの。
またねって。
私はもう一度一輪車を練習して、乗れるようになった。
それをあの男の子に見てもらいたくて、毎日あの場所へ行ったけれど、一度も会うことはなかった。
その時に、私はその男の子が好きなんだって気づいたの。
これが“恋”なんだって。
私の初恋の記憶。
甘い失恋の記憶。

