「言えるじゃん…、ちゃんとはっきり『嫌だ』って言えるじゃんか」






そう言って梶瀬君は私を見上げた。



笑っている。



でもその笑顔はどこか偽物っぽくて、本当の笑顔じゃないってことは分かる。




「そう言えばいいんだよ。優しく断られても、俺隙を見つけて、自分の愛情押しつけるからさ」













「痛いほど強く断ってくれてありがとな」






梶瀬君はそう言って立ち上がって地面と接していた部分に付いた土を手で払うと私の方に近づく。





「橋宮、最後にお願いがあるんだ」



「な…に?」


涙で震える声。







「俺の下の名前呼んで?」


梶瀬君の名前?

どうして…?



「呼んでもらったことないから記念だよ」



私は涙を抑えて、涙でしゃくりあげる息を落ち着かせると、目を閉じてゆっくり目を開けた。










「広樹くん」





「ありがとう、橋宮」



なんか報われたよ。


と小さく梶瀬君は呟いた。