「カヤコ、待てよ」

正二は、通り過ぎる花夜子の腕
を掴んだ。

「はなして

 お兄ちゃん」

「アニキ、待って・・・」

振り返ることなく、兄貴は言う

「ショウ、お前は残れ
 
 カヤを頼む」

兄貴の最後の声を掻き消すよう
に車のドアは閉まり

クラクションの音がひとつ
深夜の町に響いた。

そして、一夜を乗せた車は遠く
消えてしまった。

「カヤコ、行こう
 
 ほらっ、走るぞ」

抱いた花夜子の肩が震えている
のは、冷たい雨のせいじゃない