桃染蝶

アンタの手は・・・

一夜は棺の中、胸元で組まれた
祖父の手に触れた。

「あったけぇ」

死人に口なし・・・

アンタが生きた証

この金は、有り難く俺がもらう

俺の好きにさせてもらうぜ。

祖父ちゃん。

俺は、この世に存在しない
貴方を憎む必要は無くなり

一泡ふかせてやりたいとの思い
は、もう二度と適う事はない。

お通夜の席を抜けて、表に出る
と雨が降っていた。

雨に濡れながら、兄貴は立ち
尽くす。

「アニキ、早く車へ
 
 濡れる・・・」