兄貴は噛まれた指を猫のよう
にペロペロと舐めながら
もう片方の手を左右に振った。

そして、男の手を圧し折った
その手を見つめる。

俺はその手を見る度、祖父が
大切なものに触れるように
その手を優しく摩ってあげて
いた時の事を思い出す。

寒い日・・・

冷たい床、竹刀を持つ兄貴の
手が、かじかむ。

『冷たくないか、イチ?

 おまえは筋がいい
 さすがは、私の血を
 受け継ぐ者・・・』

兄貴の手を摩りながら、そう
言って高笑いをするのは
一族の長・富と権力の持ち主

時田 一路(ときた いちろ)