桃染蝶

見てない・・・

お兄ちゃん、私、見て見ぬ
ふりなんてできないよ。

お兄ちゃんを助けられるのは
一夜、貴方しかいない。

薄汚れた壁のアパート。

その前で駐車しているタクシー

階段を上り終えた花夜子は
部屋の前、ドアを叩く事を
躊躇している。

部屋の表札は知らない名字。

『いっちゃん・・・』

一夜をそう呼ぶ女の名・・・

この扉の向こう側

そこは、一夜と彼女
二人だけの楽園。

この場所に踏み込むべきでは
ないことを、私は知ってる。