たじろぐあたしを、にこにこ見つめながら連れて行こうとする彼女。


「ちょちょちょちょちょ、待ちたまえ!? 待ちたまえさかもっちゃん!?」


「は…? ……あっ! だ、旦那様!」


「今気付いとる!?Σ」


思いっきり衝撃を受ける父様がちょっとかわいそうに思えた。

だって坂本さん…本気で気付いてなかったからね、自分の主の存在にさ。

まあ、とはいってもこの人は…あたしの専属。

坂本家と神崎家からは、他にも何人かうちに来てるけど、お兄ちゃんと坂本さんの二人はあたしの専属だ。

野木さんといい、みんななぜか父様達を差し置いてあたしに忠誠を掲げている。

…いつの時代だよホントにもう。


「ふっ…。いいんだよいいんだよ。さかもっちゃんはまおのお世話係だもんね…。僕なんて二の次三の次だよね…」


「そっ、そのようなことはございません! も、申し訳ありません…」


「ふっ……」


わざとらしく落ち込む父様のそばで、おろおろと気にする坂本さん。


「いいよほっといて」


「は……しかし…」


「いいから。…ねえ、お茶は?」


「はっ! そうでした! あ、皆様もどうぞお入りください。間取りは本邸と同じものとなっておりますので、ご自室のほうへどうぞ」


四十五度くらいに頭を下げて言う彼女は、本当に優秀だ。

しかももう父様のことは忘れてる。


「本邸の間取り……忘れた」


「忘れたて、自分の生まれ育った家やんΣ」


そりゃまそうだけど。

まあ、入ったら思い出すでしょ一緒なら。


「…そりゃ方向感覚があればの話だぜ」


「……」