その店は、旧街区の古びた建物の地下にあった。

 細く急な階段を獣脂ランプのわずかな明かりを頼りに降りると、扉代わりらしいタペストリーをめくって店内に入った。

 床も階段もべたべたしていて、歩くたびにサンダルの底を引っ張られた。

 店内は暗く、奥にあるカウンター上に大きな獣脂ランプがあるきりだった。

 暗く赤いランプの光は、店全体を照らせないので、どのくらいの広さなのか判らない。

 ぼんやりと黒っぽい壁が見えるので、広くはなさそうだが、距離間が掴めない。

 店内は見えてる範囲で十卓ほどのテーブルが乱雑に置かれている。

 その合間を掻き分ける様にして、彼は私を連れて奥のカウンターに向かった。

 カウンターは、店の他の場所とは違い奇麗に磨き込まれていた。

「いらっしゃい。おや、珍しい、お連れさんが一緒とは」

 カウンターの中から、ここのマスターらしい男が声を掛けてきた。

 おでこが禿かかっていて、頬がこけている。

 ドクロのように落ち窪んだ目をこちらに向けながら、棒読みで言ってきた。

「ヴァドを生で頼む」

「いつものだね」

 そう言って、彼がカウンターに置いた硬貨をすばやくかすめ取り、口広で背の低いグラスをカウンターに置き、黄金色の蒸留酒を注いだ。