「あ、ヒュード様、競りの最中ですので、困ります」

 店主の声を無視して、ヒュードと呼ばれた男は、じっとその鋭い視線で私を見ていた。

 顔は逆光でよく見えなかったが、その視線は、ぼんやりとしていた私の目を射抜いていた。

「おい、お前」

 太く低い声が私の耳に届く。

 その声に私は、ぼんやりとした視線で返した。

 影になった顔の中で、男の碧眼が宝石のように輝いていた。

 ドラゴマブカの牙を打ち込まれている私には、はっきりとした自意識はなく、外からの特定の言葉に従順に反応するだけだ。

「おい、俺の声が聞こえているだろ。
そうだ、こっちを見ろ」

 その言葉に、自然と彼の方へ顔を向け、焦点が合わさった。

「ふむ、やはりな。
気に入った、おい、5万出すぜ」

 彼は、ぶっきらぼうに言うと、檻の扉に手をかけた。

「ヒュード様、困ります。
それは競りの商品なのですから、手続きを踏んでもらいませんと」

「だから、5万出すって言ってるだろ、ほらよ」

 彼の右手がひらめき、五枚の金貨が弧を描いて、店主の元へ投げられた。

「おととっ」

 店主が慌てて五枚ともキャッチする。

「確かに渡したぜ」

「ええい、もう。
はい、5万ジードでヒュード様落札です」

 店主はあきらめて、私の競りを終わらせた。

 ヒュードと呼ばれた男は、満足そうに私の檻の扉を開いた。

「さあ、出な。
お前さんは俺のもんだ」

 私は、ぼんやりと、差しだされた彼の右手を見詰め、迷った。

 この差し出された手に、乗るべきか乗らざるべきか。

 迷う私に、彼はぐっと顔を近づけて囁いた。

「お前にドラゴマブカの牙が効いていないのは判ってる。
ここはおとなしく着いてこい」

 その言葉に、私はそっと肯き、ゆっくりと檻を出た。