「ようし、てめえは図体がでかいだけの木偶人形の木偶だ」

 彼は、膝を付きぐったりとうなだれていた北荻の男にささやく様に言った。

 そうだ、あの自我がもうろうとした状態で名を打ち込まれると、意識がそこに集中し、その声に対して従順になってしまう。

 それが・・・

「ドラゴマブカの牙だ。
よく効くだろう」

 左脇のリンパ節に呪と共に打ち込むと思考を麻痺させる神経毒が全身を支配する。

 その感覚は、よく覚えている。

 自分が自分でない恐ろしい感覚だ。

 だから私は・・・

「よし、それじゃあ、有り金全部置いたら、倒れてるの連れて、帰りやがれ。
そのまま深北部へ消えろ」

 北荻の男はゆっくりと立ち上がり、腰のポーチから財布をその場に落とし、最初に殴られた男を担いで店を出て行った。

 驚いたのは、北荻の男の背後にいた数人の男たちまで、同じ行動を取ったことだった。

 まさか、今の一瞬で全員にドラゴマブカの牙を?

 いや、何か違う。