彼はそれに合わせるかのように、輪に入り込んだ。

 それはまさしく、旋風だった。

 視界の効かない店内に、男たちとテーブルが舞う。

 あぜんとする私の目の前で、彼は息も乱さずに、最後の一人の顔面を拳で粉砕した。

「なんだ、ジーカイザーってのはこんなもんかよ」

 その時、入り口のタペストリーをかき分けるように、大きな人影が入ってきた。

 大きい。

 天井近くまである背は、もちろん、ヒュードより頭二つほど高い。

 上半身裸の絞られた筋肉の鎧は、うっすらと灰色の体毛で覆われていた。

「ほう、珍しいな、北荻か」

 北荻、バーバリアンと呼ばれる種族だ。

 話には聞いたことがある。

 何でも、深北部の広大な極寒の荒れ地に住む強靭な身体を持つ種族らしい。

 確かに強そうだ。

「お前か、ジーカイザーに仇なす薬法師というのは」

 ゆっくりとした口調で、流暢に話す。

 低いかすれ声で、少し聞き取りにくい。

 彼の雰囲気がなんとなく変わった気がした。

「ちょっと違うな。
俺は薬法師じゃないぜ」

「何を言っている。
その服装に、黒真珠のネックレス。
どう見ても・・・」

 そこで、北荻の男は彼の黒真珠の数に気付いたようだ。

「その若さで、九つの黒真珠を持っているだと?」