「茉希ちゃん。」
「…、何ですか。」
目を細めて、優しく笑った杉山さんは雑誌を閉じてふわりとサングラスを取って机に置く。
「珈琲、淹れてよ。」
茉希ちゃんの珈琲は特別甘いから好きなんだ
と。
ブラックが嫌いな私より年上のくせに、もう27にもなってもうすぐ三十路なのに。
ミルク尋常ないほどいれなきゃ飲めなくて。子供っぽい、ほんと。
「大人なんだから、ブラック飲めるようになってくださいよ。」
「あはは努力する。」
…嘘だ。
多分この人は一生、珈琲は喉が痛くなるくらいミルクいれなきゃ飲めないんだろうなって思った。
《どうでもいいんだけど。》
杉山さんがサングラスを取った目は、どことなく青と似ていた。
バッチリかち合った視線は、私が珈琲を淹れに行くためゆるりと逸らす。
もうすぐ、バイト先のお節介な先輩が
いなくなる――…。


