はは、と安藤は小さく笑った。


「私は・・・勉強だけ。頑張れば報われたから。・・・だけどおしゃべりは苦手だし、不器用だし、ちっともオシャレじゃないし・・・。」




料理人の心得とばかりに、安藤は髪を一纏めに縛っている。

その長い艶やかな黒髪が目に入って、無意識に手を伸ばしていた。



驚いて飛び跳ねた安藤に俺こそ自分の行動に驚いてフリーズしてしまう。




なにやってんだ、俺は!



「悪い。髪の毛、粉だらけだと思ったから、つい・・・」

「あ、そ、うん。あ、ごめんね。小麦粉、アッチコッチに飛び散らかしちゃって。」



顔を真っ赤にしてワタワタすんな。

すっげー可愛いとか本気で思っちゃうから。



止めようとして手を掴んで、その感触に焦げるような痛みを覚えた。


安藤は狼に鉢合わせた子鹿みたいに固まって。





無意識に俺は屈むようにして安藤の顔の顔を近づけていた。