「どうしてそんなこと言うの?」


それは本当に不思議そうな声で、
俺はますますいたたまれなくなって、
言葉が喉元で渋滞を起こしているような気がした。


「嫌か?」

「嫌じゃないよ。嫌なわけないじゃん。でもどうして」


抱き合ってるだけじゃ、もう眠れないのかも――――。

そう言いたかったけれど、言葉にすることを口が拒絶した。
そこまで彼女にすがっていいのか、
もういい加減、見て見ぬ振りをするのをやめろと、お節介な頭の中の誰かが叫んでいる。


あぁ、

白い霧が、

雨に変わる。


咲恵に触れたい。
淋しいのだと、寒いのと嗚咽してほしい。

咲恵が、この不毛な孤独の共有から脱したがっているのを、俺は知っている。
彼女が目を開ける瞬間、強烈に俺と彼女を隔てる、あの風が吹くことを。

深淵に落ちてゆく快感を感じているのは俺だけだ。
這い上がることを望んでいないのは、俺だけだ。

ふたりになれば、ちらりと光が見えるような気がして、彼女は俺の部屋を訪ねてくる。
でも、その光は視界の端に映るだけの悲しい儚さ。
俺が彼女の足にすがりついて、沈めている。


「ごめん」

「……どうして謝るの。ケイくん、変だよ」


俺は、咲恵をどうしたいんだろう。
このままずっと孤独に酔いしれて、温もりだけをただ分け合って、何もせずに?

咲恵には、きっと咲恵の輝きをわかってくれる人がいる。
どんな理由であれ、俺が気付けない彼女の眩しさを見出す奴がきっといる。
俺たちのいる、この小さな苦しい世界の中にも。
本当の意味で独りになるのを恐れているんだ。
咲恵と出会ってから、自分の空虚と見つめ合って、震える咲恵の姿でその穴を埋めた。


俺は―――いつだって―――自分にだけ、優しい世界にいたんだ……。