けれど、少し上向きになった彼女のその表情は、
ぞっとするほど綺麗だった。
また、霧が戻ってくる。
咲恵が泣き崩れた、あの夜。
俺が見つめるその先に、
君がいて、
君の視線の先に、
俺がいて。
……あの夜よりも、近い……。
『ケ・イ・く・ん』
咲恵がそう唇を動かしたのがわかった。
泣き顔以外に似合う表情…ふとこぼれた微笑み。
霧は濃い。
あの夜みたもの、霧の向こうの景色。
やっと、何だかわかったんだ。
(咲恵……そこにいたのか)
霧は晴れない。
けれど、目に眩しい青の傘をさした君……。
霧の奥、雨の果て……。
俺はずっと知っていた、
そして、
誇りに思っていたんだ。
そう、いつもいつも……。
あの子がその身に纏うのは、胸を衝く程鮮やかな、水色の風――――。
END


