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十日が経った。

俺は本当に、冗談じゃなく眠れない日が続いている。


なんだかもう笑えるくらいだ。
疲れが顔に張り付いて、頭痛の陰湿な痛みたるや、死ぬんじゃないかと思うほどだ。
霧は晴れないまま、咲恵の姿も見ないまま。

抱えきれない空虚と相対し続ける俺は、もしかしたら病的で―――でも以前より健全だ。


「圭、圭……」

「なに」

「……お前、だいじょぶ?なんか顔すげぇ疲れてる」

「ん…なんか知んねーけど寝不足なの。寝付けなくてさ」

「あー、女?女?そんなら新しい恋がいちばんいいよ」

「いいねぇ。でもめんどくせ。それに今俺めっちゃ不健康な顔だから、無理っしょ」

「確かに」


中途半端に核心をつく言葉に、少し心が揺れた。
いや、心が揺れるまでに回復したということなのだろうか。
笑う声は、前のように乾いてはいない。


「あ……おい圭、あの子、あの子」

「あぁ?」


つられて窓を覗き込む。
まだ午前の授業も終わっていないというのに、鞄を持って歩く咲恵の姿がそこにはあった。


「早退かなー。こっち向かないかな」


絶対に咲恵は振り向かないという気が俺にはしたので、俺は無遠慮にその後姿を見つめた。


……少し、痩せた、かな。ごめんな……。


下唇が乾く。
咲恵、と口だけ動かして呼んでみた。


「お、こっち向いたっ」


隣の奴がはしゃいだ声をあげる。
立ち止まって、咲恵が何かを探すように後ろを見ている。


(まさか……)


散々視線を泳がせて、

やがて、

それは、

こちらへと動き、

ゆっくりと焦点を定めた。


「えっ、なんかこっち見てる?」


(咲恵……)


彼女は変わらずに、そこにいた。