この場にいる全員がもし大島先輩を見ていたとしても、
私は真柴先輩を見ていた。
ボールを目で追って、
スムーズに先輩の体が反応していく。
パスを受け取って、ドリブル―――。
スポーツの事はなんにもわからないけれど、
この時だけは世界のすごい大会を見ているような気持ちになった。
いつもどおりの無表情で、ボールを運ぶ。
あっという間にゴールが近づいた。
「優人!」
私の体はびくんと反応した。
大島先輩が真柴先輩の下の名前を呼んだから。
私が呼ばれたわけでもないし、私は真柴先輩のなんでもない、だけど―――。
一人をかわし、真柴先輩がゴール下に詰めた大島するりとボールを回す。
受け取った先輩がいとも簡単にボールをゴールに叩き込んだ。
綺麗なダンクを観たギャラリーはわっと大いに盛り上がる。
チャイムが鳴った。
大島先輩のチームが勝ったのを見届けた観衆は、また盛り上がって手をたたく。
バスケをやっていた人達も、床に放り出した制服の上着を拾いにいったりしていた。
「今度から大島のいるチームハンデつけようぜ」
「だよなぁ、何故か大島のチームに優人もいるし。勝てるわけねぇわ」
その話を私は盗み聞きして、胸を高鳴らせる。
もしかして、3年生の間では真柴先輩がバスケうまいって皆知ってるのかな?
当の本人たちは、また何か話している。
ギャラリーが散り出すのに、私はそこから動けなかった。
ここからじゃ先輩たちの会話は聞こえない。
大島先輩が何か言って笑う。
あ――――笑った―――――。
「………っ」
声が出せないままチエちゃんの制服の裾をぎゅっと掴んだ。
初めて、見た……。真柴先輩の笑った顔……。


