沈黙をやぶってくれたのはお冴江さんだった。
「どこから来たんだい?」
やっぱり、この質問くると思ったんだよね
「東京…。」
私はぼそり、とそう答えた。
だってその他の答えなんてわからない。
「とう、きょう?…そこは外の国にあるのかい?」
いやいや、思い切り日本なんですけど…
めんどくさいからあえて言わないでおこう
お冴江さんはまじまじと私を見つめる。
「今日、行くあてはあるのかい?」
「えっと…」
言葉につまる。
そうだ、今日これからどうしよう?
それに外はもう薄暗い。
電気なんてないこの時代、ろうそくの炎がほのかに部屋を照らす。
「今日は店の人手が足りてなくてねぇ。
なんせ今は風邪が流行っている。
あんたさえ良ければ今日、店の手伝いをしてくれるとうれしいことだね。」
お冴江さんは私が困ってるのがわかったのか、こんなことをいいだした。
「今日のお客様はちょっとしたお偉いさんなんだ。」

