Fahrenheit -華氏- Ⅱ



あたしは生まれたばかりのユーリの育児で雑誌を見るどころじゃなかったし、そもそもそんな記事が出回っていたことすら知らなかった。まぁ、大手の雑誌ではなかったし、記事事態もそれほど大々的に扱われてなかったから、知らなくて当然だったけれど。


それを見て、あたしは……あたしだけ時間が止まったように身動きどころかまばたきさえできなかった。ただ、雑誌を凝視するだけで、その瞬間


恐ろしいまでの絶望感に襲われた。


雑誌の記事は、相手は地元の市町の有権者の娘で、関係は一年以上前から続いていた、と書いてあった。


計算すると、あたしが妊娠していたときから―――?確かにあたしたちの仲は冷めきっていた。けれど―――……だからと言って浮気をしていいことにはならない。


何も知らなかったあたしは、バカみたいに呆けていた。


従業員はあたしに同情的だった。心音にもすぐに相談したかったが、そのとき彼女は事務所に居なくて一週間程、マンハッタンで顧客との打ち合わせに出かけていた。普段、顧客との打ち合わせはあたしか、ビジネスパートナー、そして幾人か営業要員で雇った従業員が出向く筈だったが、あたしたちでは解決できないサーバートラブルで呼び出されたようだ。


あたしはすぐに当時ユーリと三人暮らしのアパートメントに帰ってマックスを問い詰めたが、


「I just did it on impulse.It was a summer play.That was a one summer play.(ほんの出来心だ。一夏の遊びだった)」と詫びの言葉も述べず、さらりとかわされた。もちろん「All I really love is you.She was on the eagerness of talking with me, It's just...happened.(本当に愛してるのは君だ。ただちょっと向こうが乗り気で、少し話が合ったからそれで何となく流れで)」と弁明してきた。


許せなかった。心の底から。


たったひと夏の遊びで済まされる問題?しかもあたしがユーリを身ごもっている間の出来事だ。


怒りと悲しみでどうにかなりそうだった。一方的に怒りを露わにしているあたしをマックスは何事もなかったかのように軽く流した。それでも「All I really love is you.(本当に愛しているの君だけだ)」と彼は呪詛のように繰り返した。


あたしは、彼の言葉を鵜呑みに出来なかった。とっくに冷え切っていた関係だったけれど、その裏切りに悲しみと怒りで心が押しつぶされそうだった。


その数日後、あたしはマックスの母ジェシカにお茶会に誘われた。