Fahrenheit -華氏- Ⅱ


「振り回されるのが嫌で、のめり込む自分が嫌で、意識しだした最初の頃は必死に感情を押さえていました。


満羽のことを好きになって、やがてそれが愛に変わっていったとき、また裏切られるんじゃないか、と恐怖も覚えた。


でも止められなかった。




彼女を愛することを―――」


菅井さんは、やっぱり瑠華に似ている。瑠華もマックスに手ひどく裏切られて、愛する子供を奪われて、二度と恋をしないと誓ったのだ。


「満羽は……そうですね、最初僕の後輩として配属されたときから、ちょっと子生意気で……正直最初は苦手意識があったのですが、何かのキッカケで二人で飲みに行くことがあって、女性だからと言う意味で周りの社員たちに見下されてることを酷く怒っていました。まぁ実際そうだったので、否定もできませんでしたが。


でも僕は違う、と。同等に扱ってくれる、と。『相棒』として接してくれることが嬉しかったみたいで、彼女はそのとき社内ではほとんど見せることない笑顔で、あれこれ語ってくれました。


そのとき僕は、『ああ、この子の強気な部分は男に負けたくない』と言う自己防衛だったのだ、と思えたら何だか凄く愛おしく感じて。


支えてあげたい、と思ったのです」


言い切った所で菅井さんは再び小さくため息。


「僕って単純ですよね。また痛い目見るのが目に見えてるのに…」


俺はそれを否定しなかった。


「単純です」


俺の答えに菅井さんが苦笑いを寄越してきた。


「大抵男なんて女と違って単純にできてるんです。でも単純なもの程、本来一番大切にすべきものなんですよ。


複雑な感情なんて要らない。ただ




“好き”


そう思えたのなら、突き進む。それのみなんです」


俺の意見に菅井さんは意外そうに目をまばたき、やがて小さく笑った。


「あなたも単純な口ですか?」


「単純ですよ?特に柏木さんに対しては、ただまっすぐ進むのみですね」


それしか道はないのだ。自分にも言い聞かせるように言った言葉に菅井さんはまたもうっすら笑い


「かっこいいな」と小さく呟いた。


俺はそれをJAZZの音楽で聞こえないフリをした。