Fahrenheit -華氏- Ⅱ


何と答えていいのか分からなかった。菅井さんの指摘してきたことはまさに図星だったから、すぐにもっともらしい言い訳を繕うことができなかった。


女相手(瑠華以外)だったら、どんなことでもうまく切り抜けてみせるのに、言い訳すればするほど間違った方向へ行きそうで、何も言えない。


しばらくの間、目を開いて菅井さんを見つめていると


「安心してください。私はお二人の間にどんな過去があったのか知りません。彼女から聞くつもりもありません。この先ずっと……」


真咲は―――菅井さんに何も話してない……?


でも菅井さんは――――俺と真咲の関係を勘付いている……恐らく恋人同士であったことも何となく気づいているに違いない。


でも、菅井さんだって彼と真咲が実は婚約してる、と言うことを俺が知って居る、と言う事実を知らない筈。


何か……何か言わなきゃ…


と思う気持ちだけ逸って、頭の中がぐちゃぐちゃになる。次の言葉を用意しようと整理した文字の羅列が脳の中で歪に行き来しているが、一つの答えに繋がらない。


菅井さんが最後のお茶を飲み干し


「では、私はこれで…」と席を立ち上がろうとした。





「何故」




俺は、菅井さんの行動を止めるよう少し大きめの声で聞いた。


菅井さんが不思議そうに目をまばたき、上げようとしていた腰を再び椅子に戻す。


「……すみません…」


呼びかけたのは俺の方なのに、何故かその一言だけが口について次に続く言葉を用意していなかった俺は戸惑った。何故、この人を呼び止めたのか。


俺自身が一番謎だ。


でも―――


「何故、知りたいと思わないんですか」


率直な意見だ。と言うか疑問。俺が……俺だったら…気になって仕方のないことを敢えて知ろうとしないのか、知りたかった。


今、まさに目の前にチャンスが落ちていると言うのに。


俺の問いに、いつもにこにこ愛想の良い菅井さんの顔から表情というものが落ちた。


まさに


落ちた。