Fahrenheit -華氏- Ⅱ


エレベーターが到達するまで二村の熱弁は続いた。俺はゲームはやらないし、昔は麻雀三昧だったが、オンラインゲームには全く興味がない。言われてる意味が分からず、適当に聞き流していたら、ようやくエレベーターが到達して、


「悪いけど、俺今から打ち合わせ。尾藤さんのことは柏木さん経由で聞いてみる。じゃな」とだけ言い置いて(でも、席を設けるつもりはない。あの二人を会せたら絶対良くない結果を生み出しそうだし)ようやく二村から解放された俺は疲れを滲ませながらエレベーターの中に入った。


ほっと息つく間もなく、あっという間に1Fに到着する。


受付ロビーで、来客用のテーブルの椅子に菅井さんを見たとき、俺はちょっと目をまばたいた。


椅子に座っていたのは菅井さん一人で真咲の姿が見当たらない。


菅井さんは俺の姿に気づくと慌てて立ち上がり、ぺこりと一礼。


「お忙しい中、申し訳ございません。この辺りで営業回りをしておりましたので、ご挨拶と進捗状況をお聞かせいただきたく」


「いえ、こちらこそわざわざお越しくださいましてありがとうございます。本来ならこちらから窺うべきでしたが」


と、通り一遍の挨拶を交わして、俺は菅井さんに椅子に座るよう勧めた。彼が腰を下ろすのを確認して自分も向かい側に座る。


「今日もお一人ですか?真咲……さんは…」


気になっていたことを聞くと


「真咲は体調を崩していまして、昨日からお休みをいただいています」


と意外な答えが返ってきた。


体調不良?しかも欠勤するってことはよっぽどのことだよな。


あいつは昔から責任感とプライドが強いから、与えられた仕事は多少の体調不良でも無理してこなすところがあった。


「インフルエンザですか。早いところだともう小学校で学級閉鎖があるみたいですね」


と、俺は当たり障りのない返事を返し、何とか苦笑いを作る。ただの世間話だ。そう思わせたい。


受付嬢がお茶を出してくれて、話が本題に入ったとき正直ほっとした。