Fahrenheit -華氏- Ⅱ



菅井さんが来た、となると真咲も一緒の可能性が高い。


いい加減、今までうやむやになっていた『婚姻届』をどうすべきかちゃんと考えないとな。


因みに、各担当営業マンの来客が一度でもあると、その客は受付で全て顧客データとして管理される。だから心音ちゃんの場合、なかなか受け継いでくれなかったのだ。胡散臭い飛び込み営業なんて、数えきれない程あるからな。それを一々相手にしていたら、こっちの身が持たない。


と言うわけで、彼女は危うく門前払いを食らうところだったが、そこが心音ちゃん!だよな~……


『菅井様、アポはないようですが、どうされます?』と聞かれ、俺はすぐに会議・応接室の使用表をチェックしたが、生憎だが瑠華が使用している会議室も含め、空室はない。


「受付ロビーは?空いてる?」


『はい、今のところ使用予定はありません』と、俺にとっては“残念”な答えが帰ってきて、「了解、下に行きます」と答えるしかなかった。空いていなかったら、軽く挨拶して立ち話で終わらせられる。


向き合わなきゃ、と思う反面まだ向き合う覚悟ができていない俺が居る。


手元にあるファイル形式の資料を手に、重い腰をのろのろと上げる。


アザールの件がポシャって、他社を数件ピックアップはしてある。もちろんピックアップしてくれたのは瑠華だが。


資料をまとめたのが佐々木。んで、最終的に俺に回ってきた。


「打ち合わせですか?」と佐々木が聞いてきて、「ああ、セントラル紡績さんと。俺の欄に1F打ち合わせって書いておいて」俺はホワイトボードを目配せ。


「はい……あの…僕が行きましょうか…?」


と、珍しく佐々木が申し出て、俺は首をひねった。


「いや?俺が行くケド、何で?」


「いえ……ちょっとモメてたみたいですから……進捗状況をお報せするだけなら、僕でも」


あーまぁねー……現在進行形でモメては居るが、佐々木はまさか俺のプライベートが絡んでるとは思いも寄らないのだろう、ただ単に善意で申し出てくれたわけだが、


いつまでも逃げ続けるのは限度がある。


「サンキュ。でも俺が行くワ。今、あっちはかなり“これ”だからな。下手に刺激したら余計こじれる。お前には電話番頼む」


俺は頭の上で両手の人差し指を二本立てて、しかめっ面。


佐々木は苦笑いで、俺を送り出してくれた。