Fahrenheit -華氏- Ⅱ


会議室を出て、再び最後に「See you.(またね)」


「Bye. Good-bye.(ええ)」


と互いに手を挙げ挨拶を交わしていると、給湯室から制服を着た女性がひょっこり顔を出した。あまり顔なじみが無いけれど、確か……総務部の…


「あ、柏木補佐、お茶お出ししようと思ってたんですけど…」


と、女性社員がこちらの様子を窺うように目だけを上げる。


来客の場合は基本、自部署の女性社員(主査以下。因みにあたしは部長補佐と言う肩書があるからお茶出しはしない)と決まっているが、女性社員が不在の場合は総務部の女性が受け持つ。


彼女は来客の為のお茶出しをしようとしていたに違いないけど、あたしが中から鍵を掛けていたのだ。きっとどうしてよいのか分からず戸惑った筈。


「もう終わりましたので大丈夫です。ありがとうございます」一言礼を述べて、でもそれ以上深くは説明しなかった。下手な説明をして変に勘ぐられても困る。


「あ、じゃぁお帰りのお見送りを」と、彼女は手にしていた布巾を手近の棚に置いて、慌てて廊下へ出てくる。お客様を最後までお見送りするのは対応した社員か、場合によっては総務部の女の子がしてくれる。


「いいえ、それも結構です。彼女は私の古くからの友人ですので。ありがとうございます」と、それも丁寧に断った。


これは私たちの例の作戦の妨げになるかも、と言う懸念からではない。


単に心音はここの女性社員にあまり良い感情を持ってないみたいだから。あれこれ総務部の女性社員に意地悪をするかもしれない、と思ったのだ。