Fahrenheit -華氏- Ⅱ



「白と黒の兵士たちがキングを守るんですけど、それがまたリアルな闘いで!装備とか武器とか揃えて相手のキングを打ち破るんですけど!!」


と、二村さんが勢い込んできて、どうやら心音のゲームが好きなのは本当みたいだ。


あたしはちょっと目をまばたいて軽く肩を竦めた。


二村さんの話振りからすると、オンラインゲームの類だろう。装備や武器を手に入れるのもお金が掛かる……所謂課金ってやつね、それでゲーム会社は儲かるシステム。


あたしは改めて心音の姿をつま先から頭のてっぺんまで視線を巡らせた。


服も靴もバッグも、ついでにサングラスと言った小物も全て海外セレブ御用達の高級ブランドものだ。あたしが買ってもらったのも相当な値段だったし。二村さんみたいなユーザーは心音にとってありがたい客に違いない。


そこから二村さんは心音のゲームについて熱く語り出した。二村さんは純粋に心音のゲームが好きみたいで、手振り身振りで熱心に話しかけている。心音は最初気を良くしているのか、話に耳を貸していたが、段々と面倒になってきたのか、受け答えが雑になってきている。


「話は以上ですか?私たち急いでますので」


と、適当な所で話を打ち切り、あたしは会議室の扉に手を掛けた。


「有意義な話が出来て本当に楽しかったです!」と一方的に二村さんの話を聞かされ、若干うんざりしていたけれど




「キングを倒すのは、装備や武器ではないわよ。大事なのは“ここ”を使うこと」


心音は自分のこめかみをトントンと叩いて、意味深に微笑んだ。紅い口元にうっすらと浮かんだ笑み。




「“Checkmate.”


気を緩めると、簡単にKingは敵に倒される。充分慎重になるべきね。


これは忠告よ」




一言だけ言い置いて、心音は会議室の扉を勝手に開けた。


首だけを傾け顎をしゃくるようにあたしを中に促す。


「か………かっこいい!!!!」二村さんの絶叫が廊下に響き渡り、


あたしは軽く肩を竦めて促されるまま部屋に入った。心音が扉を閉める瞬間彼女が二村さんの方を振り返りちょっとだけ眉を吊り上げる。


「Ah……名前を聞くのを忘れたわ。Mr……」


「二村です。二村 空汰」


「OK.Thanks.覚えておくわ、Mr.ニムラ」


「お会いできて光栄です!!」二村さんは最後の最後まで楽しそうにブンブン手を振っている。


その造り物めいた似非クサイ笑顔を視界からシャットダウンするように、あたしはきっちり扉を閉めた。