Fahrenheit -華氏- Ⅱ



気付いたらあたしのロックグラスはいつの間にか空になっていた。


お代わりを飲むつもりで、HPのHTML(ウェブサイトを作成するときに使われるもので、記号化されているものです)を巧みに操っている心音を振り返り


「心音も何か……」


言いかけて言葉を飲み込んだ。


心音の高速で動く白い手の上に重なるように置かれた―――





子供の手





子供の手……と言うよりそれは赤ん坊ぐらい小さい。


思わず目を開いて、見間違いかと思って目をまばたきさせたが、それは消えることがなかった。


単に酔っぱらって幻覚を見ているのだ、と思い直そうとしていたけれど、あたしは酔ってなどいない。頭も心も恐ろしいほどしっかりしている。


「心音……」


思わず心音に声を掛けると


「ん?」と心音がPCに向かったまま声だけで答えた。


「子供の手…」


「子供?」心音は不思議そうに顔を上げ、心音には―――見えてない?


一瞬だけ心音の手が止まると、ふっと白い影は


消えた。


あたしの背中に冷たい何かが伝い落ちた。


あたしには霊感などない。けれど“あれ”を例えるとしたなら間違いなく『幽霊』


これを俗に言う悪寒と言うものだろうか。


あたしは何も言わずせっかちに心音のPCの蓋をパタンと閉めた。


「What’s!?」


心音が眉間に皺を寄せる。


「…ごめんなさい、今日は疲れてるみたいだから作業は明日にしよう」と提案すると


「疲れてないし」と心音は不服そうに口を尖らせる。


「あたしは疲れた。一人で作業させるのも心苦しいから、今日は休みましょ」と言うと、心音は肩を竦めた。


「まぁ?まだ日本に滞在してる日も残ってるしね」とすぐに納得したようだ。


「それより瑠華、あんた大丈夫?顔色が真っ青よ」と指摘され


「いえ…」言いかけて「ええ、ちょっと疲れてるだけ」と言い直した。


「悪いけど、片付けておいて?」


あたしはロックグラスをローテーブルに残し、まるで逃げるようにリビングを後にした。