Fahrenheit -華氏- Ⅱ



何で瑠華が会社に!?


もしや緊急事態!?シロアリと何かあったのか!


思わず椅子から立ち上がると佐々木が心配そうに顏を上げる。俺の顔がよっぽど深刻そうだったのか『大丈夫ですか?』と視線が物語っている。


だけど


『あの、急な仕事が入ってしまいまして、調べていただきたいものがあるのですが』瑠華の控えめな声。とりあえず…緊急事態ではなさそうだ、と言うことを悟った。


「急な案件?」俺はことさら平常心を保って答えた。


『はい、申し訳ございませんが資料室で資料を調べていただきたいのですが』と言われて、


これは!


今ここでは言えないことなんだ、と言うことをすぐに悟った。


「資料室ね、オッケー。じゃぁ俺の携帯からかけ直すよ」と返し、通話を切った。


「誰ですか?」と当然佐々木からの質問が来るわけで


「柏木さんから。急な案件が入ったから資料室で調べてくれって」


と、そのままの言葉で返すと


「そうなんですね、柏木さんも大変そうですね」と佐々木は素直に頷く。


「とりあえず資料探ししくるワ。それまで待っててくれ」と言うと佐々木は素直に「はい」と頷いた。


俺はダッシュで資料室に向かい、内側から鍵を掛けて自分の携帯から瑠華にコールバック。


「緑川ともう別れたの?」と気が急いていたのか、大した挨拶もできず口早に聞くと


『ええ、彼女は先に帰りました』と相変わらずそっけない。その口調からそれ程重要視することでもない気がしたが…


でも…どうしても、気になる!


「相談事って何だったの?」とストレートに聞いてしまって、言った直後「しまった!」と口を押さえた。俺気にし過ぎっ!!


だけど瑠華は面倒くさそうではなく


『婦人科系の病気のことです。小さな子宮筋腫があるみたいで大きくなると手術が必要になるみたいで、良い婦人科を知らないか、と相談されました』


と、相変わらず業務報告するような淡々とした口調。


キンシュ?


禁酒?


“きんしゅ”の意味をうまく変換できなかったけれど、女しかない病気だってことだよな。しかも手術になるって結構おおごとじゃん!


『今はそれ程重要視する程でもないですが、万が一のことを考えて』との言葉にちょっとほっとした。


『癌ではないし筋腫はすぐに大きくなるわけではありません。身体に影響があるわけでもありませんが、大きくなると今後出産の際に関わってくるので…』


との言葉に『出産』の言葉に肩がびくりと震えた。


けれど俺が動揺すると、俺の知られたくない秘密を勘ぐられる可能性がある。


俺はことさら何でもない様に


「そっかー、おおごとじゃなくて良かったよ」と心から安堵した様子を演じた。


だけど


『それよりも今から会えませんか?』


との言葉に「へ!?」と自分でも間抜けと思える声が出た。


いや待て、啓人。


瑠華がわざわざ会社まで電話を掛けてくるぐらいだ。


電話では話せない重要なことを話したいのかもしれない。と色々深く考えていたから、電話の向こうで、ふっと瑠華が小さく笑う声が聞こえて


『単に会いたかっただけです。プライベート用の携帯は音源を切ってあると思いましたので』


との言葉に


YES!!


と俺はガッツポーズ。


一昨日からさっきまですぐ近くで顏を合わせていたっていうのに、もう瑠華切れしてからな。


会いたくて、会いたくて~♪


浜崎あゆみじゃないが、そのメロディが頭の中に流れてきた――――





「ヤッベ、これから佐々木と飲みに行く約束してたんだ」


すぐにガクリ。


俺、どーして佐々木を誘っちまったんだろ↓↓(←それは佐々木クンに失礼)


瑠華からお誘いの電話が来るって分かってたなら絶対言い出さなかったことなのに(←結構ヒドイ)


瑠華と会えるのは明日の朝かぁ……と肩を落としていると


『そうですか、では佐々木さんもご一緒に』との返事に


「え!?佐々木もぉ?」思わず不服の答えが出てしまったが


『たまにはいいじゃないですか。三人、部署の飲み会って今まで無かったでしょう?』と言われ


それもそっかぁ、と単純な俺はすぐに立ち直った。