Fahrenheit -華氏- Ⅱ


瑠華がシロアリ緑川と出かけていって一時間半が過ぎた。


俺は二人がどこへ行って何の話をしているのか気になり過ぎて、仕事は一向に進まない。(メールも誤発信しちまったし)


その斜め前で、こちらは随分真剣に…て言うか真面目に?仕事に勤しんでいる佐々木に目がいった。


通常ならもう帰っていく時間だがよっぽど難しい書類に手こずっている様子。


言うまでもなく書類の資料を集めるように指示したのは俺だけどね。


けれど指示した本人が他事を考えて仕事が手につかないて上司失格だよな。部下がこんなに頑張ってるのに。


気分転換と、佐々木を労うつもりで、俺は自販機でホットココアを購入した。


ホットココアなんてどれぐらいぶりだろう。普段は絶対飲まない飲み物だが、自販機にコーヒーを買いに行ったら無性に飲みたくなった。


疲れてんのかな??


佐々木も疲れてるだろうし、これでいいだろと言う意味で勝手に選んでフロアに戻ると、相変わらず佐々木は真剣に書類とPCに向き合っていて


「お疲れさん、ほれ」


と言ってココアの缶を手渡すと佐々木は不思議そうに目をぱちぱち。


「ココア?」


「疲れてるだろ?そんときは甘いもんがいいんだぜ」と苦笑すると


「何か…部長に優しくされると怖いんですけど…明日は台風が来そうな予感」と佐々木は気味悪そうにしながらココアの缶を受け取る。


おい!人が親切に買ってやったって言うのに!(怒)


「そんなこと言うなら返せ」とココアを奪おうとすると


「飲みます飲みます!」と佐々木はココアの缶を奪われまいとする。


それでも佐々木は嬉しそうにしていて、すぐにココアの缶のプルタブを開けていた。


一口口にすると


「美味しい」と一言。そりゃそーだ。俺様が買ってやったんだからな。


と半分冗談交じりで心の中で思いながら俺もココアを飲むと、思った以上にこれがうまい。


やっぱ疲れてたんだな。


とは言っても俺は佐々木と違って、瑠華とシロアリが何の話をしてるのか気になり過ぎて疲れてる。


「なー、佐々木ぃ」


俺は斜め前でココアの缶を手に書類に向き合っている佐々木に声を掛け、佐々木が顔を上げると同時に


「それ、それほど急ぎの案件じゃねぇし、一旦切りあげて久しぶりに飲みに行くか?」と誘った。


俺の方は女二人のやり取りが気になり過ぎて仕事になんねぇし、佐々木の方も行き詰ってるぽいし。


「え?」


佐々木は目を上げて小さくまばたく。


「何だよ、俺とじゃ不服か?」と僅かに眉間に皺を寄せると


「行きます!♪」と、それまでの難しい顔から一転、急に明るくなった。


まぁ??佐々木としても俺をスポンサーとして当てにしてるわけで、でも部下が素直に誘いに乗ってくれるのってちょっと嬉しい…かも??


だって最近の若者は(自分が言うなよって感じだけど)上司の誘いを簡単に断るからな。


仕事とプライベートは別にしたいんで、って言う感じ?


ま、俺も村木が「飲みに行きましょう」って言ってきても丁重に断るが。


「どこに行きます?」と佐々木はワクワクしていたが、突如外資物流直通の電話が鳴った。


誰だよ、こんなタイミングで。と俺は苛々しながらも


慌てて佐々木が電話を取ろうとしていたが、「俺が取る」と言う意味で軽く手を掲げる。


俺が対応した方が早そうだからな。佐々木は律儀に真面目に俺の指示した仕事をしてくれていたからな、それを労うって言うか申し訳なさも相俟って電話に出ると


『お疲れ様です、柏木です』


との声に、


「へ!!!?」


思わず声に出た。