Fahrenheit -華氏- Ⅱ


あたしは、あたし自身、そしてそれと対面している緑川さんを客観的に見つめている。あたしの背中の後ろで。


あたしはいつも通り背を正し、顏には表情と言う表情を浮かべていない。


掛けるべき言葉が―――分からない。


緑川さんはあたしの向かい側で、今にも嗚咽を漏らしそうな……崩れ落ちそうな、壊れちゃいそうな、そんな風に見えた。


あたしは―――予想もしていなかった話を打ち明けられ、それにどう対処していいのか分からないのだ。


背後に居るあたしが、あたしの横をすっと通り過ぎ、きっと泣いているだろう緑川さんの両肩を悲しそうにそっと抱きしめた。


もちろんそんなの幻想だけれど。


あたしは眉を寄せた。ここにきて初めて自分が何をすべきか気付いた。


あたしはバッグからハンカチを取り出し、テーブルに置いた。


「泣かないで。誰だってそう言う事態に陥ったら混乱するものです。私があなたに酷な質問をしてしまいました。申し訳ございません」


そっと言うと、やはり涙を流していた緑川さんが顏を上げ、あたしを見るとふるふると首を横に振った。


「元々…あたしが柏木補佐を頼ったんです。何を言われても柏木補佐に怒ったり後悔したりはしません」


ハッキリと言われ、緑川さんは―――初めて出逢ってから今のこの短期間で、随分変わったと思った。


“母”になったかもしれない、と言う責任感と母性なのか、それともまやかしでも『愛』を知ったからなのか―――


あたしはここにきて初めて微笑を浮かべた……つもりだった(自信ない)


けれど気持ちだけは伝わったようで、緑川さんは目尻に溜まった涙を指で拭いながら


「とりあえず、もう少し待ってみた方が良いってことですよね。取り越し苦労かもしれないし」


と意見を仰いできた。


「ええ、今の時点では何も分からないので。そうですね……これから二週間後…ちょうどハロウィンパーティーの時までに生理が来なかったのなら、報告してください。




一緒に病院へ行きましょう。


状況によって、その後のこと二人で検討しましょう」


あたしが提案すると、緑川さんは涙を溜めたままの目をぱちぱちさせた。