Fahrenheit -華氏- Ⅱ


―――怖い……?


その感情の意味が分からず


「それは……あなたに子供が出来たら彼は逃げていくかもしれないから…と想像されているのですか」


と目を細めると、緑川さんはまたもゆるゆると首を横に振った。


「あたし……一昨日まで二村くんのことが凄く好きでした。


それこそ相談しようと何度も悩みましたが、結局言い出すことができなくて……


あたし、副社長の娘だってこと二村くんに言ってないから、それを知ったらどう出るのか不安だったのもありますし。


でも、一昨日部長がマンションに来てくれたとき……


あ!ごめんなさいっ!そのっ!変な意味じゃなくてただ部長はあたしのこと心配してくれただけで…」


と、緑川さんは必死に手を振り、慌てて言う。


勿論それは知っている。あたしは麻野さんのストーカー問題の為、綾子さんを引きつける為にショッピングをしていた。あたしが啓に頼んで緑川さんの様子を見にいってもらったのだ。そこで二村さんと遭遇したことも、彼が啓を挑発してきたことも、知っている。


「緑川さんのマンションに、あなたを心配して訪ねていったことは知っています」


本当はもっと色々知っているけれど、緑川さんの反応が見たい。


どうして、そのときから『怖い』と感じたのか。


「二村くん……部長に言ったんですよ。笑いながら。


麻野主任の個人情報を…


何で知ってるのかちょっとびっくりしましたが、人事部にコネがあるとか…


そこで初めてちょっと気味悪いな…って…いえ…気味悪いって言っちゃダメですよね…そう言う意味じゃなくて…何で?て純粋に…


でもそれだけじゃないんです。




あの時の表情―――


あんな―――笑ってるのに、目が笑ってないって言うか―――



感情がまるで読み取れなくて、あたしの知ってる、あたしが好きだった二村くんとは別人に見えて、


あたしの知ってる二村くんの中に、もう一人あたしの知らない二村くんがいるようで




何か分かんないんですけど急に……怖くなりました」



それはとても“危険”を現しているようで。


緑川さんはそう続けた。