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「え!妊娠!?」
あたしが思わず口にすると、緑川さんは慌てて唇に指を置き「しー!」と言った感じで身を乗り出し慌てて周りをきょろきょろ。
幸いにも他の客と席が離れているおかげかあたしの発言に誰一人として振り向くことはなかった。
「本当ですか…?あの、お相手は…」
「いえ…まだ妊娠かどうか分からないんです。もしかしたらそうかも…って。勿論相手は二村くんです」
くらり、と眩暈が起きそうな気がしたが、コーヒーを飲みながらいつものペースを守るのに必死。
「あの…確認したいのですが、このこと二村さんはご存じなのですか」と聞くと緑川さんはゆるゆると首を横に振った。その表情はどこか暗さを滲ませていた。
『どうして相談しないのですか』と言う質問をする前に
「生理が来なくて……あたし割と28日周期できちんとくるのに、もう二週間ちょっとも遅れてて…」
緑川さんは今にも泣きだしそうにテーブルの端を見つめ切り出した。あたしと視線が合うことはなかった。
「事情が複雑だったので、友達にも相談できず……事情を知っていて尚且つ女性である柏木補佐だったら聞いてくれそうだったので」
なるほど、緑川さんが何故『女性にしか話せない』と言ったのと、あたしが選ばれた理由が今になって分かった。
「最後の生理が来たのはいつですか?」
あたしが聞くと
「計算したら47日…」と緑川さんはこれまた可愛らしい花柄の手帳を取り出しペラペラとめくる。
47日…
「なるほど、通常なら28日周期で来る生理が来ないと言うことはその可能性もありますね」
あたしが声を低めると
「やっぱり!」と言った感じで緑川さんがぱっと顏を上げる。ここで初めて目が合った。
「通常なら、最終月経の開始日を妊娠0週0日として数えますので、この時期が1週間目となります。最終月経から2週間後くらいに排卵が起こり、精子と出会って受精し、着床が起こるまで約三週、当然ながらこの時期は妊娠しているとは言えず、自覚もないです」
あたしの説明に緑川さんは真剣な表情で大きく頷く。
「計算すると緑川さんはすでに妊娠している可能性もあります」とカップから口を離し緑川さんを真正面から見つめると、緑川さんは酷く深刻そうに眉を寄せていた。
「妊娠検査薬とか……病院とか行った方がいいんですかね」
「いえ、例え妊娠していても超初期段階と言えます。この時点で調べるのは不可能です。
それに二週間と言うズレは誰にでも起こりうることです。もしかしてストレスが原因かもしれませんし」
そう進言すると緑川さんは大きな目をまばたき、あたしと目を合わせたもののまたも伏せた。



