Fahrenheit -華氏- Ⅱ



チョコを渡し終えた裕二は大人しく帰って行くかと思いきや


「啓人もさ~、マジでサンキュな」とお土産を受け取ってくれた瑠華にほっとしたのか、急にくだけた調子で勝手に佐々木のデスクに腰を下ろす裕二。すぐに帰る気はなさそうだ。


「もう二度とやんないからな、それから……」


言いかけて俺は口を噤んだ。瑠華の写真を俺に送れ、そしてお前のスマホとPCから完全削除しろ!


いくら瑠華が裕二からもらったチョコに夢中でも、この台詞は口に出せん。


てか、何??


瑠華はさっきから裕二からもらった紙袋から小さな箱を取り出して、大きな目をぱちぱちさせながらも色んな角度から眺めてる、何なの!その可愛い動作は!


「は~、これでぐっすり眠れるワ」


と裕二はのんびり。


お前はぐっすり、でもこっちはまた違う問題で当分寝不足決定だ!


と若干苛々した動作で乱暴にマウスをクリックしてると


俺のイライラがPCに乗り移ったのか、開いていたHPの画面は固まりやがった。


「裕二ぃ」結局、こいつにHelp


裕二はPCのバグ(?)なのかどうかも分からんが、何をやったのかカチカチとマウスとキーボードを操り、ものの数秒で元通りに直した。


なるほど、二村が言う通り、やっぱこいつってこの道じゃ優秀なんだろうな。


じゃぁ何で浪人したんだろ??


まぁ、そんなこと今考えたって……てか裕二の過去を知ったって得することなんてないからな。(←ヒドイ)


そうこうしているうちに佐々木が「おはようございま~す」と登場。


裕二は佐々木とタッチ交代で、階下に帰っていき、始業時間の9時も近くなると、他のブースも賑やかになった。


俺はちょっと気になって、ちらりとパーテーションの向こう側を覗きこんだ。





シロアリ緑川は


出勤、していた。