Fahrenheit -華氏- Ⅱ



「ところで桜田さん(広報二課長の名前ね)もこんな時間に出勤ですか?」


俺が話題を変えるように課長に振ると


「広報誌の締め切りが間近でして」と言って頭を掻き、何となく一緒にエレベーターに乗り込む形になったが


嘘だな。


課長からほんのり香ってきた香りはレディースものの香水。まぁ??奥さんの移り香だって言われたらそれまでだが。でも香ってきたのは、いかにも若い女の子が好みそうな甘ったるいものだった。


朝からお盛んなことで。


俺は心音ちゃんに生気吸い取られまくりだってのに!


まぁ、社内で不倫の噂ありってのは本当のことだったんだな…


8Fのフロアに到着して、そこでようやくそれぞれのブースに別れたが、


デスクにちょっと乱暴と思える仕草で新聞を投げ置いた瑠華がポツリと一言。


「Kiss my ass.」


低く唸るような言葉は呪いの言葉に思えて、俺はそれだけでビクビク!


意味は





―――くたばれ





いつもは広報二課長がどこで何してようが、変な噂が出回っていようが、まるで気にしていない様子の瑠華だが


やっぱり心音ちゃん襲来で、疲れてるように見えた。