Fahrenheit -華氏- Ⅱ


結局、その日も俺は瑠華の家にお泊りした。


何故か、心音ちゃんにしつこく誘われたから。


「ね~ケイトも一緒に遊びましょうよ~♪」


と。普通なら大人の女の言う『遊び』が何なのか大体の察しが付くし、瑠華と付き合ってなけりゃ即OK!


だけど、色んな意味で彼女の言う遊びがふつーじゃなかったり……


三人でガチでポーカーやって、大損↓↓因みに一番強かったのが意外に(?)いやいや、もともとポーカーフェイスの瑠華が勝つわけで。


24時間365日一緒に居たい俺としちゃ嬉しい!しかも美人もついてる!って喜ぶべきところだケドね……


喜びを不幸のどん底へと落としてくれる、『(美人な)付属品』がもれなくくっついてるわけでー


俺は月曜日なのに、もうへとへと。


朝、髭を剃り、歯を磨いて顏を洗って洗面所で顏を確認すると、たった二日間でげっそりと病みやつれた俺の姿が映って余計にげんなり。


心音ちゃんは瑠華と同い年だって言った。時差ボケもあるだろうけど、俺は心音ちゃんが自室で休んでいる姿を見たことがない。一体いつ寝てるの!それなのに、やたらとパワフルだし。


あの若さと美貌を、俺から吸い取って保っているに違いない!!


それとも変なクスリやってる??


こっちの想像の方が妥当な気がする……


髪をセットして瑠華が淹れてくれたコーヒーを飲み、新聞は……ここじゃゆっくり読めないから会社だな。と言う意見は瑠華と一致して、二紙を脇に抱え言葉も少な目に


「行ってきます」


と玄関口で靴を履いてると


「I’ll see you later.♪(行ってらっしゃ~い♪)」と元気な心音ちゃん。


扉がパタリと閉じると、当然彼女の姿も視界から消えるわけで、俺は盛大にため息を吐いた。


「何か……ごめんなさい。心音が啓にご迷惑を…」と何故か瑠華が気を遣ってくれる。


きゅん……優しいね…


と、トキメイテいるときでも


「It’s a lost article.(忘れ物~)」と心音ちゃんがひょいと顏を出す。


「え?忘れ物??携帯も持ったし、新聞もあるし…」と一応確認をしていると、心音ちゃんは全然不自然じゃない動作で瑠華に軽くハグ。


「Enjoy.(行ってらっしゃい)」と言い、瑠華の両頬にこれまた慣れた様子でキス。


瑠華の方も慣れているのか、顏を交互に向ける動作でさえ様になっている。


キスの挨拶は……当然ながら瑠華にだけで、俺を見ると心音ちゃんは手をひらひら。


「Bye.」


「またね」


俺が返すと、心音ちゃんはそれ以上何も言わずに扉を閉めた。


だが、扉が完全に閉まる間際



彼女はおっとりと微笑んでいた。


俺が少しの間とは言え見ていた妖艶とも呼べる赤い唇が、淡い笑みを浮かべていて、目尻は優し気に下がっていた。


心音ちゃんは―――



瑠華のこと、きっと凄く好きなのだろう。



そのことにちょっと安堵した。