Fahrenheit -華氏- Ⅱ



それ以降、瑠華は真咲について何か聞いてこようとしなかったし、俺から敢えて出したい話題でもない。


俺はそこからいつものテンションに戻って極力明るい話題を振りまいた。


瑠華はくだらない世間話に少しだけ笑ってくれて、ちょっとずつだけど俺が真咲についての関係性を話したからかな……遠のいた距離が縮まった気がする。


成田空港の第二ターミナルに到着したのは、そこから40分後だった。


瑠華の話に寄ると、心音ちゃんは四階のレストランエリアで食事中とのこと。全体的に高級志向な感じを受ける店々が並んでいて、和食の食べられるレストランの前、


すらりと身長が高く、遠目からも分かる程、抜群にスタイルの良い(美人の)女が大きなスーツケースを脇に、姿勢良くピンと伸ばされた立ち姿で、スマホをいじっていた。


マスタード色のワイドパンツに、肩回りを繊細なレースで切り替えたノースリーブニット姿。服のセンスも良い。


黒い髪は毛先をゆるく巻いてあって、口元には真っ赤な口紅。それが危ういぐらい色っぽくて彼女に良く合っている。


以前の俺だったら、間違いなく声を掛けてるタイプだ。


以前から写真を見ていたからと言うのもある、すぐに彼女が“心音ちゃん”と言うことに気づいた。


瑠華が声を掛けるより早く、


「Hey!瑠華!」


その女が早くこちらに気づき、明るい笑顔を浮かべて手を振る。


「Hi」


瑠華も軽く手を振る。


瑠華はすぐに心音ちゃんに近づき、お互い軽くハグをしたのち、これまた自然な振舞いで両頬にキス。


一通りの再会、挨拶を交わしたのち、瑠華の後ろにくっついている形になった俺の姿を目に入れると


「Wow.彼氏連れ?♪ I was surprised.(驚いたわ)


電話で一度話したわよね?あなたがケイト?」


と、心音ちゃんはちょっと色っぽく笑う。


笑い方が―――ほんの少しだけ紫利さんのそれと似ていた。