Fahrenheit -華氏- Ⅱ




転がったペットボトルを拾ってくれたのは綾子さんだった。


その合間に少しだけ気持ちを立て直すことができた。


あたしは耳に掛かった髪をかきあげ


「元カレのことを思い出したんです……少し苦しい気持ちになって」


何とか言い訳をこさえ、綾子さんは


「ごめんなさいね…私のせいね。私が言い出したから」


そう勘違いして眉をわずかに寄せた。


「いいえ、綾子さんのせいじゃありません。


本当にただの食べ過ぎですので、お気遣いなく」


あたしは慌てて手を振り、綾子さんに微笑みかけると綾子さんも安心したように笑った。


言えない―――


啓に女の人の影がある。なんて






言えない。