緑川が俺の怒鳴り声にビクリと肩を震わせて、そのふしに細いピンヒールがバランスを崩した。
緑川の体がぐらりと傾き、俺は咄嗟のことで手を伸ばしていた。
ドサッ
緑川の体を腕の中で受け止め、俺の額に冷や汗が伝い落ちた。
……よ…良かった……
何の安心か分からなかったけれど、緑川は転ぶことなく俺の腕の中にいる。
「…あ、部長……す、すみません…」
緑川が恥ずかしそうに俯き、慌てて俺の腕から離れる。
いつになくしおらしい緑川に調子が狂う。
でも何で―――…
何であの手が緑川にも…?
俺は緑川の両腕を掴んで
「大丈夫だったか?」
いつになく真剣に聞いた。
俺の見間違いか……
だってあの手が緑川の背後に現れる“理由”が分からない。
見間違いだ。きっと窓ガラスに何かが反射してそう見えたに違いない。
見間違いであって欲しい。
ってかこんなこと考える俺、相当疲れてるんだろうな。
「大丈夫か?」
力が抜けてもう一度聞くと、
「…あ、はい…何とか…」
緑川は顔を僅かに赤らめて頷き、俺は間近でこいつの顔を見て
具合が悪いってのは本当のことだったんだ、と気づいた。
化粧けはなく、顔色は青白く見えるし、いつものうるうるグロスが乗った唇は色を無くしてかさついている。
「具合…どう?柏木さんも心配してたぜ?」
「あ、はい…なんとか…大丈夫です」
緑川は歯切れ悪く答える。
いつもと様子が違う緑川に、俺は気になってたことを聞いた。
「てかさー、何で電話するのに部屋の外に出たわけ?
オトコでも居ンの?」
俺の質問に緑川がはっとなったように顔を上げ、次の瞬間泣き出しそうに眉を寄せた。
ビンゴ…かぁ。
二村―――だな。



