Fahrenheit -華氏- Ⅱ




淡いピンクの大きめニットに、細身のジーンズと言ういでたちで緑川がエレベーターから降りてくる。


俺が知ってるふわふわブリブリの女の子仕様じゃなく、いつもよりそっけない感じはしたが


俺はこっちの方が好きだったりする。


って…緑川が何着てようが俺に関係ないし。極端な話、着ぐるみでも何とも思わないぜ。


「部長…!すみませんっ」


緑川はエレベーターの扉から飛び出てきて、エントランスホールを走って潜り抜けてくる。


ガラスの自動扉の向こう側で緑川は息を切らし、


そしてその背後に―――





俺はギクリ、として目を開いた。




緑川の背後に





あの小さな小さな赤ん坊の手が、



今彼女を押し出そうとしていた。



何――――で……






ドサッ



俺の手からプリンの箱が落ち、だけれどそのプリンも気にせず俺は走り出した。


緑川は一瞬驚いたものの、俺に駆け寄ってくる。





「走るな!」






俺は大声を出して緑川を止めた。