Fahrenheit -華氏- Ⅱ




次の日は決戦の日だと言うのに…(←大げさ?)俺はのんびりと9時ぐらいまで眠ってしまった。


隣に瑠華の姿がなくて一瞬焦ったけれど、開け放たれた寝室とリビングを隔てる扉から漂ってきた紅茶の香りに気付くと


ほっとした。


俺は紅茶をあまり飲まないからそれが何の種類なのか分からないけれど、花のような香りがふわりと香ってきて、その香りは鼻腔を優しく刺激した。


キッチンに向かうと、寝起きの格好…白いシャツと赤いフレームのメガネと言う格好で瑠華がティーサーバーからカップに紅茶を注ぎ入れている最中だった。


俺に気付くと、


「おはようございます。啓も紅茶飲みます?」そう聞いて瑠華は、ガラス製のティーサーバーを軽く持ち上げる。


すでに注ぎいれられたカップにはオレンジ色の色味が強い紅茶が湯気を立てていた。


「うん。何の紅茶?」


「キーマンです。中国安徽省の紅茶で中国茶のブルゴーニュ酒とも言われてるんですって」


「へぇ…中国に」


俺は目をぱちぱち。俺の得意分野だってのに、そんな種類の紅茶があるとは知らなかった。


「綾子さんにいただいたんです。会長が出張のときお供して、そのとき見つけたみたいです」


綾子……俺には今まで一度も土産なんて買ってこなかったくせに。


瑠華は僅かに目を伏せて何かを考えるように俯いていたけれど、それでもすぐにその複雑そうな表情を拭い去って顔をあげた。


「いい香りですね」


瑠華ちゃんはいい笑顔だよ♪


俺の不機嫌なんて瑠華の笑顔の前だと小さなもんだ。俺って単純♪





でも―――…このとき、


そう…ほんの一瞬の、彼女の表情の変化をもっと問い詰めていたら―――




これから起こる事態は変わっていただろう。




でも、平和ボケしていて気付かなかったのは―――俺。







朝のティータイムなんて優雅にしちまったけれど、時間だけは過ぎていく。


いかん、のほほんとして幸せを満喫してる場合じゃない。


十時を過ぎた頃に瑠華はシャワーを浴びにいった。続いて俺もシャワーを借りる。


いつも一緒なんだし今日も一緒に入ればいいだろう、って??そりゃそーしたいさ~


だけどそうしたら俺の暴れ下半身が…みなまで言わせるな。


つまり瑠華とラブラブしてる暇などないのだよ、今日の俺は。