Fahrenheit -華氏- Ⅱ



部屋に着くと瑠華は一人でシャワーを浴びに行った。


「俺も一緒に入る!」と提案してみたが、


「考えたいことがあるので今日は別々で」と断られてしまった。


瑠華、冷たい。…クスン。


その間にウチヤマとはまた別の人間が花を届けに来た。ウチヤマより少し若そうに見えたがこっちもかなりハキハキとした好青年だ。


瑠華が頼んだ黄色いの花が長細い箱にぎっしり詰まっている。


「以上で宜しいでしょうか?ご用件がございましたら何なりと」


コンシェルジュはきっちりと頭を下げて、扉を締めようとする。


俺はそれを引き止めた。


「待って。これ。チップだ」


そう言って五千円札をコンシェルジュに手渡した。


コンシェルジュはちょっと困ったように顔をしかめ、


「いえ、チップは決まりでお客様から受け取ってはいけないのです。お気持ちだけ受け取らせていただきます」


断り口も慣れている。


そー言われると思ってた。


「だったらその金でピザ頼んでおいて。シーフドピザね。夜も遅いし疲れてるから作る気になれなくって」


俺はデリバリーピザのちらしを掲げた。


「釣りはいらねぇから」


そう言って俺が自分の胸をトントン指で叩くと、そのジェスチャーに、コンシェルジュも安心したようにちょっと頬を緩めた。


「かしこまりました。では大至急注文してまいります」


「ああ、頼むね」


「ではまた、後ほどお伺いいたします」


うーん…教育が行き届いてるって言うの??


あれだ、ディズニーランドに居るみたいだ。


あそこの従業員は誰に何を聞いてもすぐに的確な返答をくれるし、おまけに元気でいつも笑顔。


さすがは億ション。と言って感心しているときに瑠華がバスルームから出てきた。


まだ濡れたままになっている髪をタオルで拭きながら、


「あなたもなかなか気が利くところがあるじゃないですか」と瑠華が微笑を浮かべていた。


「ええ、そーですよぉ」


“なかなか”と言うところに若干引っかかりを感じつつも、


俺はちょっとでも彼女が笑ってくれると、嬉しかったり。