Fahrenheit -華氏- Ⅱ



び……


「ビビらせんなよ!!」


ズサッ


俺は思わず身を引いて、エレベーターの壁にへばりついた。


瑞野さんの可愛い笑顔を思い浮かべてたところに、急に野郎のドアップが映って、気分はサイアク。


野郎のアップなんて見たくねぇっつの。


裕二はふてぶてしく腕を組んで眉間に皺を寄せると、メガネのブリッジを指で押し上げ、無言でエレベーターの箱の中に入ってきた。


そしてまたも唇を真一文字に結んだまま、異様とも呼べる表情でエレベーターの“閉”ボタンを押す。


「何だよ!俺は降りるところだ」


俺が“開”ボタンを押そうと、腕を伸ばしたが裕二はその腕を阻んだ。


くるりと振り返ると、


「来てんだよ」


と、青ざめた顔で俺を少し睨んできた。


「来てるって、何がヨ?女運の悪さか?それなら当たってるぜ♪」


ケラケラと笑い飛ばしたが、裕二はいつもの調子で冗談を飛ばさずに、本気で俺を睨んできた。


女運が悪い……


「……まさか…?」


俺の顔からもまるで風に吹かれたように、笑顔が序々に消え去っていった。





「そのまさかだよ」





裕二は本気で頭痛がするのか、額に手をやって力なく頷いた。