Fahrenheit -華氏- Ⅱ



結局、綾子と言い合いをしながら時折瑞野さんに止められながら、コーヒーを飲み干すと、俺は自分のフロアに戻った。


エレベーターの箱が僅かな機械音を鳴らし、ゆっくりと降下していく感覚を靴裏で感じながらも、俺は考えていた。


会長室から離れていけば行くほどに、重力がのしかかったように、解せない何かが頭をを重圧する。


たとえば……だぜ?


例えば、瑞野さんの好きな人が俺だったとしたら、二村はそのこと知ってんのかな?


知ってて俺にあれこれちょっかい掛けてくるのかな。


もし瑞野さんが俺のことを好きだったとしたら、それは会社乗っ取りを考えるより以前に露見した事実なのだろうか。


知ってて乗っ取ろうとしているのが、一番しっくりくる。


俺が居なくなりゃ会社も瑞野さんも手に入るってわけだからな。


だけどそうなりゃ瑞野さんの気持ちはどうなる??


このまま行けば二村は緑川と結婚して、婿入りすりゃ副社長の座を手に入れられる。


うまくやりゃ俺を追い出して、のちのちは社長の地位を手に入れることだってできる。


でも、そうなれば瑞野さんは一生日陰の身だ。


好きだったヤツも失って、あるのは二村の“愛人”と言うこれ以上にない不安定な地位と………




最後に残るのは―――













ポーン…


エレベーターが目的の階に到達する音を告げ、俺はゆらりと顔を上げた。


瑞野さんの上品で、それでいてはにかむような控えめな少女のような笑顔がふっと脳裏によぎった。


あの笑顔の裏に何を考えているのだろう。何が眠っているのだろう……



重い金属の扉が両隣に開いて、ぼんやりと廊下を見ると、





「トラブルだ」





目の前に、裕二の顔があって俺は目を開いた。