Fahrenheit -華氏- Ⅱ





―――っえ?


俺が慌ててズボンを見やると、確かに!


うをっ―――!!!


慌ててチャックを上げると、綾子が思い切り顔をしかめて俺を睨んでいた。


「会社で堂々と露出してんじゃないわよ。この変態」


「お前気付かなかったのかよ。もっと早く注意してくれ」


「あんたの下半身になんて興味がない。って言うか、私の中であんたは常にモザイクかかってるから」


なんてグサリ!と酷いお言葉。


「お前な!仮にもお前の好きなかいちょーさまのDNAを俺も引き継いでるんだぜ!」


何て勢い込むと、綾子は


はっ、と白々しく流し目で笑いやがった。


くっそーーー!!綾子めっ!!


忌々しそうに綾子を睨むと、コーヒーを淹れ終えた瑞野さんが苦笑を浮かべながら俺たちを会長室に促した。





「ホントに仲いいんですね…羨ましい」





彼女の消え入りそうな声は、綾子のブツブツ言う声と食器が重なる音で聞き取り辛かったが、


それでも俺には、その言葉がちゃんと聞こえた。


現に綾子は聞こえていなかったのか、


「持つわ。瑞野さんってかよわそうだから」なんて言って、瑞野さんからカップを乗せたトレーをさりげなく引き取っている。


綾子…お前も男前だな…


って、そんなことどーでもいい。



瑞野さんの声は、寂しさとほんの少しの羨望が入り混じった―――抑揚のないものだった。