Fahrenheit -華氏- Ⅱ




―――…長い夢から覚めると、まるで脳みそが鉛に変わったかのように重かった。


気分も最悪。


朝に飲むコーヒーよりも黒い気分を抱えながら、それでも隣に居る瑠華のおかげかな…


引きずるような重い気分が、少しだけ和らいだ。


それでも体は正直だ。眠りが浅かったせいか、何となく集中力が持続しない。


いつになく頭も瞼も重く、午前中で栄養剤を1本、コーヒー2杯を空にした。


只今、朝イチからたった一つの稟議をずーっと作成中の俺。


少し複雑な稟議書で、統計などのデータ資料を見ながら、メーカーに納期連絡や価格の確認の電話をしながらだから遅くなるのは当然のことだが、


それでも異常なまでのスピードだ。


一向に進まない稟議書作成にイライラしながらも、


「No Earthly Business!(お話になりません)」


と言う瑠華の少し強い声が聞こえて、俺も佐々木も揃って顔を上げた。


瑠華は例のごとく、テレビ会議中でパソコンの画面にアメリカの企業の男性担当者に向って少しだけ眉をひそめていた。


ご機嫌ナナメ??


相変わらずの無表情だったけれど、瑠華の声は少しだけ尖っていた。


「Our prices and terms also are competitive.
(弊社の価格も取引条件も他社には負けませんけど)

Don't count me out.
(甘く見られたものね)」


そう言ってヘッドフォンマイクを取り外そうとする。


『Wait!Wait wait wait!!(ま、待ってください!)』


画面から男の焦ったような声が聞こえ、瑠華はしぶしぶと言った感じでヘッドフォンマイクを再び装着する。


そのときだった。


「神流部長~、CYSメディカルの資料ですが~」


とのんきな二村がひょっこり顔を出し、




出たな二村め!!と睨みを利かせたが、




それと同時に、




ブツッ…




―――俺のパソコン画面が真っ黒になった。