裕二は少し後ろの方を気にするように、声を潜めて俺に耳打ちしてきた。
ちなみに俺の夢なのに、誰が潜んでるのか俺自身にも分からん。
「綾子が傷ついてもいいって?確かに悪いのは俺だけど、知らない方が幸せってこともあるだろ?」
以前、瑠華と言い合いになったときの言葉だ。
「だけど裕二……」
俺がまばたきをして裕二を見ると、綾子の声が聞こえてきた。
「裕二が浮気してるみたい!」
あ、綾子!?
ヒステリックに叫ぶような綾子の怒声を聞いて、俺は勢い良く振り返った。
でも―――やっぱり、背後には誰も居なかった。
But if nobody gets damaged now, what he said is right.
(でもこれで誰も傷つかないのであれば、ある意味麻野さんの言っていることは正しいってことですね)
遠くの方で瑠華の声がする。
この夢は……地平線が…俺の前に広がる闇の終点が見えない。
それなのに、瑠華の声はあちこちで反響して、エコーがかって聞こえた。
傷つかない恋なんてない―――
誰もが幸せになる恋なんてない。
瑠華をはじめとする……
―――誰もが、俺にそう言っているようだった。



