Fahrenheit -華氏- Ⅱ




あたしはマックスにとって何?


子供を産んだらそれでおしまい?


飽きたらそれで終わり?


あの激しかった熱情は欠片もないほど冷え切り、そうなると痛いほどの現実が突き刺さる。


好きだった頃、愛していた頃―――マックスがいくら浮気をしようと、どんな酷い男であろうとあたしは盲目的に彼を追いかけていた。


結婚はゴールだと思っていたけれど、あたしに待ち受けてたのは幸せな生活なんかではなく、冷たくて苦しい―――まるで地獄のようなものだった。


だけど一旦冷めると、とことん冷淡になれる。


情の欠片もないぐらい、彼のことを疎ましく思う。


憎んで、憎んで、憎んで―――………





だけどその先に何があるのだろう。







「Mom, Are you all right?Was daddy hard on the mom?
(ママ、大丈夫?パパにいじめられたの?)」


ユーリの小さな手がソファで突っ伏して泣いているあたしの頭をそっと撫でてきた。


冷え切った関係の中、その小さな手のひらだけは温かく……その温度に言いようのない安心を覚えた。


「No,It isn't teased. I was somewhat sad.
(いいえ。苛められてはないわ。ちょっと悲しかったの)」


涙をそっと拭い、ユーリの柔らかい髪を撫で上げると彼女があたしの胸に飛び込んできた。


「I ’m also sad if a mama is sad.
(ママがかなしいと、ユーリもかなしいよ)」


「July(ユーリ)」




あたしは小さな……それでもここにある何よりも温かく、優しい温度を持つ彼女を抱きしめ再び涙を流した。