Fahrenheit -華氏- Ⅱ





「Don't touch me by the hand of you who touched other women!
(他の女に触れたそのて手であたしに触れないで!)」




まるで叫ぶように言うと、隣室から何事かティムが駆けつけてきた。


「Hey!Hey hey hey!What's wrong?(おいっ!どうした!?)

Louie,Are you OK?(ルーイ、大丈夫か!)」


ティムは―――あたしに打たれて頬を押さえているマックスより、両肩で荒く息を繰り返すあたしに駆け寄り、あたしの肩を宥めるように抱いた。


ティムは、古くから付き合いのある親友みたいなマックスよりも、いつだってあたしの味方だった。


お互い恋愛感情なんてなかったけれど、それでもティムはいつだってあたしに同情的だった。


聞けば彼の父親も酷い浮気癖があり、彼が幼い頃借金だけ残し母子を置いて逃げたとか。


それがあたしたち夫婦に重なったのだろう。


だけどマックスはユーリを捨てたりしない。ユーリのことは娘として可愛がっていたし、愛してもいた。


「Louie,Take a pill!Look,July is waiting beyond.
(ルーイ、落ち着いて。ほらっ…向こうでユーリが待ってる)」


ティムはよろけるあたしの肩を抱き、ゆっくりと外へ連れ出してくれる。


大きな手のひらで、宥めるように肩を撫でられると、怒りで熱くなった気持ちがゆっくりと熱を冷ましていく。


あたしは鼻をすすりながら促されるまま部屋を出た。



その扉の先で―――ユーリがお気に入りのクマのぬいぐるみを抱きしめ、幼いながら酷く悲しそうな表情を浮かべていたのを見て、




言いようのない悲しみがこみ上げてきた。