Fahrenheit -華氏- Ⅱ



マックスのガラス球みたな瞳があたしをまっすぐに捕らえ、気持ちごと引きずり込もうとしているように思えた。


まだ盲目的に彼を愛していたあのときの気持ちを思い出してしまいそうで、あたしは慌てて視線をそらす。


まるで彼の視線から逃げるように。


「I'm satisfied with married life.(俺は結婚生活に満足してる)Even love is in you. (君に愛情だってある)


I don’t think liking to marry Rachel, even by throwing away married life.
(俺は君との結婚生活を捨ててまで、レイチェルと結婚したいとは思わない)」


良くもまぁ、抜けぬけと。


前言撤回。愛なんて欠片もないわ。


あたしは冷めた視線でマックスを見下ろすと、彼が僅かに顔を上げた。


その横っ面を思い切り張り倒してやりたい。


だけどあたしはそうしなかった。


代わりにマックスが立ち上がった。宥めるようにあたしの肩に手を置いて、


「Hey Louie.
(ルーイ)


Be sorry for doing that.
(すまなかったとは思ってる)



I did’nt have the mind which breaks a home.
(だけど俺は家庭を壊す気なんてさらさらないんだ)」


「What nerve!(良くもまぁ言えたもんね)」


あたしは乱暴にその手を振り払い、マックスを睨みつけた。


「If you have an affair, do better! Even July is in a home!
(浮気するならもっとうまくやりなさいよ!うちにはユーリだって居るのよ!)」


「Only July? Have you?How is your feeling?
(ユーリだけ?君は?君の気持ちは?)」


そう問われてあたしは目を細めた。


グラスを持ったまま腕を組むと、ふんと鼻で笑った。


「Don't flatter yourself.Do you think that it is not divorced since I still like you?
(うぬぼれもいいとこね。あたしがあなたをまだ好きだから離婚しないと?)」


マックスは肩をすくめた。


「But look now.Such a feeling cooled down long ago.
(おあいにく様。そんなのとっくに冷めたわ)」